予防医学・アンチエイジングとしてのリンパケア
生命体で「滞る」は「死」を意味します。
滞るまでもなく、働きが鈍くなったり、物質代謝が妨げられたりすることは病気や老化に直結します。ぜんそくでは、空気の通り道が障害されますし、心筋梗塞では、心臓に栄養や酸素を送る血流が障害されています。
「万病の元」と言う便秘はどうでしょうか?便秘はまた、美容と健康の大敵とよく言われます。身体にとって不要なものあるいは有害なものが、消化吸収器官に接して長時間存在してしまう。つまり、不要物が滞ってしまうのですから、当然、からだに悪影響を及ぼすというのは想像がつきます。
不快感からも、睡眠リズムを狂わせ生活習慣病などを引き起こします。また、腸内細菌の悪玉菌化により、活性酸素や種々の外毒素、エンドトキシンを発生させ、生活習慣病だけでなく悪性腫瘍の原因にもなります。
それでも、便秘は自分で自覚できます。3日も便通がなければ気分的にも不快になりますから、どうにか対処しようと、食物繊維の多いイモ類や海藻類を摂取したり、乳酸菌や、食物繊維のサプリメントを服用したりします。
これに対して、リンパ系の滞り===リンパ系の働きが悪くなって、多種多様な病気を発症したり症状を引き起こしても、リンパが病因になっていると自覚しにくいものです。
呼吸器系/血液・循環器系/消化器系/内分泌系など、人間の各器官や機能別に医学や生理学が発達し、あるいは分析技術などの進展によって、かなりの病気の発症原因も解明されつつあります。なかでも昨今注目されているのがリンパ系・免疫系の分野です。
リンパ系は、細胞の壊れたものや不要物などを処理してくれる大事な役割を果たしてくれています。もし、リンパ系が滞ると、細胞の近くに不要物や有害物が存在して、健康な細胞に悪影響を及ぼします。
組織を構成している細胞は、神経、ホルモン、オータコイド、サイトカインといったもので情報を交換しあって、協調・協力してうまく働くようになっています。しかし、変な物質が存在すると、この細胞間の情報交換がうまくいかなくなって、からだの働きがちぐはぐになって種々の病気を起こします。
リンパ系のもうひとつ重要な働きに、自己防御機能があります。外部から侵入してきたウイルスや細菌といった微生物や、自分の体内にできたがん細胞を、マクロファージや樹状細胞、B細胞などのリンパ系の細胞が認知して、細胞性免疫や体液性免疫を活性化させ、ウイルス、細菌、がん細胞などを処理して、感染症や悪性腫瘍を予防しています。リンパ系が滞った場合は、自己防御機能が働かず、これらの疾患を発症させてしまいます。
もともと動物は、動くことによって筋肉を伸び縮みさせ、その筋肉の伸び縮みによって、静脈系やリンパ系の流れを作っています。ところが現代人は、電車や自動車に乗ったり、洗濯機や掃除機、電子レンジ等の使用など、便利で快適な生活と引き換えに、からだをうごかさなくなりました。
その結果、リンパ系や静脈系の循環が極めて悪くなっています。悪いことに、便秘と違って、静脈系やリンパ系の循環の滞りは自覚できないのです。セルライトができるまでに極めて悪化して初めて、気づくかどうかなのです。
したがって、意識的に努力してリンパ系の循環をよくする必要があります。医療の基本は、予防医学です。疾患にかかってから治療するよりも、かかる前に予防するのが一番です。また、健康なからだはアンチエイジング=美しさに直結しています。リンパデトックスケアはまさに、予防医学にとても有効です。
日本薬理学会学術評議員 薬学博士
松岡 隆